議論が紛糾する事は良くあります。紛糾すること自体悪い事ではありません。しかし、無用な紛糾は時間の無駄であり、お互い疲弊するので何も良い事が有りません。
しかし、実際には、事実認識や前提条件の認識がずれている。そもそも、ミッションの合意が出来ていない。相手の主張を良く理解しないまま反論して、紛糾するような場合も多々あるように思います。
無用な紛糾を防ぐためにも、その3点の確認をどのように実施して行けばよいのか、考えて行きたいと思います。
客観的事実関係を整理する。
今の状況に至った背景、因果関係等、客観的な確認を行います。
事実は本来、一つしかありません。なので、本来、事実確認は揉めるものではないはずです。
一つしかない事実関係の確認で、何故揉めるのか、以下のような事が原因ではないかと思います。
- 事実と意見を混同しない
- 例えば、「○○したら××が10%改善された」などは事実ですが、××が10%改善されたのは、○○が本当の原因かどうかは議論が必要になります。議論は後で実施すれば良く、初めに、事実を確認しましょう。
- 事実の確認の範囲、時系列と深度
- ①時系列でどこまで過去に遡るか?②工程の川上、川下、サプライヤーチェーンのどの範囲まで調べるか?については議論を呼ぶことが多いです。議論すべき課題によっても適切な範囲は変わってきます。
- 例えば、何かトラブルが発生した時の対処方法を協議するのであれば、直近の、しかも、工程も限定した、細かな調査が必要でしょう
- 一方、原因調査となると、もっと広い範囲で事実確認を整理する必要があるでしょう。
- 重箱の隅をつつくような細かな事実確認を要求する方も時々いらっしゃいます。特にお客様関連の事実はそもそも先方の機密事項で開示されなかったり、時間がかかったりします。まずある情報で議論を重ね、不足している事実確認は本当に不足しているのか?確認が必要ならどうやって確認して行くのか?を議論して行くのが建設的だと思います。
- 前提条件、制約事項
- お客さんの約束事項、や社内の制約条件があればお互い確認しておく事も必要です。
ミッションの合意
ミッションは会社経営理念、事業戦略などからこの交渉を通じて何を我々は達成すべきなのか?どういった貢献ができるか?といった事です。
何のためにそれをやるのか?目標を明確にする。と考えてもらっても良いと思います。
社内の場合はそもそも、ミッションが合意出来ていなければ、何もまとまらないと思います。
総論賛成、各論反対はあり得ますが、各論賛成、総論反対とはならないのではないでしょうか?
もう少し、現実的な話をすると、仕事はトップダウンで降りてくるものと、ボトムアップで話を上げて行くものと両方あります。トップダウンで降りてくるものは自分の果たすべき役割など上長とよく擦り合わせしておくべきでしょう。自分事としてミッションを消化する事が大切になります。
合意形成のステップを細分化する
総論賛成、各論反対をもう少しステップで考えてみます。そもそもの話から何故?どうする?どうやってする?と総論から各論に進んで行く事が大切だと思います。
どのステップまで合意出来ているのか確認しながら進むことが大切になってきます。
主張、理由、その根拠
お互いに主張や要求を通したければ、その理由や根拠をデータ(証拠/事実/エビデンス)とともに主張する事になります。
主張と理由をワンセットにされるのは普通ですが、その根拠を支えるデーターまで提示する方は少ないのではないでしょうか?
ほとんどの方がイメージや記憶を根拠としている。というのが私のイメージです。(それこそイメージですみません。説得力がないですね)
何となく納得してはいけない。
- 何となく納得しないための心得
- 理由を説明したか?
- 根拠は説明したか?
- 根拠は事実に即しているか?
以上の3点を念頭に置き、疑問点が生じたら素直に聞くことが大切になります。特に、言葉が不明な場合、流しがちです。分からなかったり、疑問に思う場合は、確認する事が大切です。(戦略的交渉入門 田村次郎・隅田浩司 日経文庫 より)
根拠がないと感じた場合。
証拠は有るんですか?と聞くと喧嘩になりますが、根拠が示されていない。と思えば、「もう少し、詳しく教えてください」「どうしてそう言えるんですか?」といった具合に聞くことが大切になります。(戦略的交渉入門 田村次郎・隅田浩司 日経文庫 より)
そうすると、根拠をデーターベースで言ってくる人は少ないのではないでしょうか?記憶であったり、見た事もないのに、見たような話をされる方も多いです。
私の経験から申し上げますと、そのような時は、結局、確たる根拠はないんですね?と聞き返しても、ヒートアップします。
こちらもデータ、エビデンスではなく、記憶でしか間違いを修正できない場合は、自分で事実関係を調べる必要が有ります。
仮に相手が根拠としている事が事実であったとしても、実際の案件との違いが明確になって議論が深まる。あるいは新たな事実に気が付き、先に進む大きな変化点になったりします。
また、過去のエビデンスが、そろっていないような場合、じゃ、今の現実はどうなっているのか調べる事も大切です。
結論を急がない。
少なくとも、一回の交渉で結論を得るとは考えない方が無難です。事実確認、ミッションの確認(相違点の確認、相手の主張、その理由、根拠をヒヤリングするステージと、お互いのメリット、デメリットをベースにして、結論を出すステージと2段階に分けて考えるべきだと思います。
ヒヤリングの第一ステージは別に、会議の際に改まって聞かなくても、個別にヒヤリングしておく事も出来ます。
人間というのは、その場でいると、不思議と気が付かない物ですが。一旦、冷静になると、どうしてあんなことをしたんだろうという事は良くあります。
なので、結論を出す前には一旦、ブレイクする。日程の関係で、結論を先送りできない場合は、少なくとも一旦、休憩を入れる事がとても大切だと思います。
具体的なメリット/デメリットで協議する。
事実関係、ミッション、相手の主張の理解が終了したら、明確になった相違点の協議になります。
その主張、理由をその考えはおかしい、等といった議論になるとその人の価値観によるところもあるので平行線、水掛け論になりやすいです。
そこで、お互いに共有できている価値観、ミッションを改めて再認識し、双方の主張を実施した場合のメリット/デメリットを明確にして、一番効果的と思われる案を関係者で協議するのが大切になります。
そのことをイメージで示したのが下の図です。
参考図書:理論が伝わる「議論の技術」、倉島 保美(Blue Backs)
理論が伝わる「議論の技術」、倉島 保美(Blue Backs)を参考に筆者が作成
議論すべきテーマは○○すべきか?否か?施策に対してメリットとデメリットを比較して行く事になります。
武器としての決断思考法、星海社 瀧本哲史氏 にも、メリットとデメリットを比較すべきと記載されていましたので紹介します。
- メリットの3原則
- 内因性:何らかの問題がある事
- 重要性:その問題が重要である事
- 解決性:その問題がその行動によって解決できる事
- デメリットの3原則
- 発生過程:その行動で新たな問題が発生する
- 深刻性:その問題が深刻である
- 固有性:現状ではそのような問題は発生していない事
どちらが重要かは「質X量X確率」で考えると良いと記載されていました。
言われてみれば当たり前と思いますが、忘れがちな考えであると思います。
まとめ
- 無用な紛糾を防ぐためにも、事実関係、ミッションをよく確認し、相手の主張をよく理解する事が大切である。
- 事実関係の確認では、事実と意見を分ける事。確認する範囲、時系列、工程の範囲(サプライヤーチェーンも含む)を考える事が大切になる。
- 前提条件や制約条件もあれば事前に確認しておく事が大切。
- 主張するからにはその理由と根拠(証拠、エビデンス)が必要。
- 聞く側は、理由は説明したか?根拠は説明したか?根拠は事実に即しているか?を意識しながら話を聞き、疑問点、矛盾点を感じたら素直に質問する事が大切。
- 根拠が事実に即していなければ事実を調べる事は大切
- 相手の主張を通して、相違点が明確になったら、メリット、デメリットで議論すべき。
- 結論を出す前には一旦、ブレイクして頭の中を一回整理する事が大切。
- 主張が正しいか否かは関係ない。議論すべきは、○○すべきか?否か?
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