分割出願とは、2つ以上の発明を含む出願の一部について、必要な要件を満たせば新たな特許として分割して出願できる制度です。
分割出願とは上記の図のように一つの特許は分割して新しい特許とすることが出来ます。分割して行きますので元の原出願にいくつかの特許が包含されている事が前提にはなります。
出願日は原出願の日とされるので特許存続期間も原出願日から20年となります。
最大のメリットは、他社の技術動向を見て、他社を攻撃できる内容が実施例に記載されている場合、その部分を分割して出願できる事です。
特許出願は、原則、出願をした⽇が出願⽇になりますが、分割出願は、後述する分割要件を全て満たすことを条件に、原出願(分割前の出願)を出願した⽇にされたものとみなしてもらえます。(遡及効)
戦略性の高い出願ですが、ぜひ活用ください。
分割出願のメリット
共倒れ防止
先の記事で記載したように特許庁と特許性について協議出来るのは2回までで、2回目は補正に関しても制限が加わります。
例えば、上記のような特許を出願して、拒絶理由通知書で請求項1には特許性は認められないが、請求項2に関しては指摘が無かったとします。
その場合、どういった対応が考えられるでしょうか?
挑戦的な対応
アグレッシブ路線は、拒絶理由通知から、この反論で審査官も納得するだろうと思われる場合には、当初の目的通り請求項1で広い範囲での特許化を検討すれば良いと思います。
確実路線
一方、請求項1はあきらめるとなれば、請求項2については拒絶理由が有りません。確実に特許範囲は狭くなりますが特許化は出来る事になります。
共倒れ防止対応、分割出願
挑戦的な対応でやはり審査官が納得されなければ、確実に権利化出来る請求項2も請求項1の従属項ですから権利化出来なくなります。
なので、請求項2は確実に権利化したうえで、請求項1は分割して挑戦的な対応を取るといった、挑戦的な対応と確実路線の良い所とりが出来るのが分割出願です。
特許範囲の拡大
拒絶理由が見つからず一回で特許になった場合、請求項1の構成要素を見直し不要な構成要素を削除して分割出願することで特許範囲を広げられる可能性が出てきます。
上記のように、もともと凹面状と成形面が制限されていたものの、制限をなくしてより広い範囲を狙いに行くような場合に活用できます。
後出しジャンケン
もともと請求項が設定されていた発明を分割するものに限らず、明細書本文や図面の記載に基づき新規の請求項を設定して分割することもできます。
分割出願の活用を考える – 知財アシスト-大阪市 (chizai-assist.com)
つまり、他社の技術動向が分かってきたところで、明細書記載の内容で、他社の実施している技術が抵触している事が分かった場合、新たに分割出願することが可能になります。
新規事項防止ながらも、他社の動きをみて、特許を再出願出来ることを考えると「後出しジャンケン」といった言葉が一番しっくりくると思っています。
分割特許の要件にあるように新規事項の追加は認められないので、初めの明細書にいかに多くの項目を記載しておくか、が大切になります。
また、権利範囲は請求項で決まるので、明細書はその補足事項といったスタンスで説明してきましたが、後出しジャンケンの事を考えれば、リスクを承知しておいていただきたいと思います。
「分割出願」の事をマスコミなどが「再出願」という事が有りますが、後出しジャンケンのような印象を与えやすい間違えた言い方です。
分割出願は、親出願の中に元々含まれていたアイデアの保護を求めるものであって、いわば「潜在化していたアイデアを顕在化する出願」。相手の商品を見てからアイデアを変えるようなずるい手段では決してありません。
レシピ公開「伊左衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」どっちが賢い? 特許・知財の最新常識 新井信昭 新潮社より
確かに、新規事項は追加できないので、こちらがグーを出したものを、相手がパーだったので、グーをチョキに変える訳ではありません。
しかし、右手でグーを出した後、実は、チョキも出してたんだよね。といって、左手のチョキを出してくるようなイメージを私は持っています。
いずれにしても、特許法で認められた出願ですので戦略的に有効に使うべきだと思います。
出願分割の要件
時期的な分割要件
- 最初の拒絶理由通知書から60日以内、最後の拒絶理由通知書が出てから60日以内は分割可能です
- 特許査定後、30日以内は分割可能です
- 拒絶査定の場合は不服な場合は3か月以内に拒絶査定不服審判を請求します。拒絶査定不服審判請求後30日以内は分割可能です。
実体的な分割要件
- 新規事項の追加禁止
- 出願人が同一人物である事
- 2つ以上の発明を内包する特許出願(一つの発明は分割できない)
分割出願のまとめ
2つ以上の発明を含む出願の一部について新たな特許として分割して出願できる制度、出願日は原出願の出願日まで遡及してもらえます。
特許を分割して行くので、そもそもの特許(原出願)の明細書を充実させておく事は絶対条件です。
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