梱包輸送で気を付ける事。衝撃と輸送環境について。

品質改善

プロファイルにも記載したように、私は長年、液晶用の薄板ガラスの梱包容器の設計/開発を担当して来ました。

しかし、特殊な世界なのでブログに書く必要もないかと思っていましたが、私の知見の中で、極力広く、一般に使われる知見で、お伝え出来る事をまとめてみようと思いました。

もしかしたら。皆様が製品を梱包し輸送する際の参考になるかもしれないと思ったからです。

私が思う梱包輸送の難しさ
  • 梱包輸送は問題ないのが当たりまえ、なのに、途中で検査することも出来ません。問題があれば即クレームに直結します。
  • また、物を動かす以上の付加価値は生みません。なので、何故、そんなに金がかかると常に言われます。
  • 品質も輸送することで悪化することは有れ、品質が良くなることは有りません。
クレームに直結する内容
  • 製品の破損
  • 製品の品質の悪化(梱包材からの汚れの転写振動、衝撃による劣化)

それ以外のクレームで比較的多いのは、表示関係、ラベルの記載内容に間違いがある。等です。私は直接扱ったことは無いので説明は割愛します。

製品の破損

輸送中に力が一番かかるのは?

力がかかる時は加速度が働く時です。車に乗っていても、高速道路を時速100㎞で運転していれば、コーヒーもゆっくり飲めますが、急発進、急停車する時は、加速度がかかるのでコーヒーは飲めませんよね。

しかし、急発進、急停車よる加速度は実はそれほど大きくないのです。

輸送で、一番大きな加速度がかかるのはコンテナーをガントリークレーンを使って、船に積み込む時、あるいは、船からおろし港に置く時です。20G以上平気でかかります。

1Gとは重力加速度9.8m/s2

1Gとは重力加速度9.8m/s2です。9.8m/sは時速35㎞ですので、時速35㎞で運転している車が1秒で止まるくらいの急ブレーキです。1Gでも結構な急ブレーキですよね。

ところが、20G となったら?そう、単純に20倍ですから時速700kmで走っている物を1秒で止めるくらいの急ブレーキですよ。ありえないでしょ。

戦闘機などでは5Gぐらいかかる事もあるようですが、輸送中の急発進、急停止でかかる加速度は普通は1G程度です。

飛行機による輸送は離着陸時にやはりGはかかりますが、2~3G、大きくても5Gぐらいです。

なぜ、ガントリークレーンの作業で20G もかかるの?

私は実際に港でのガントリークレーンの作業を見た事もありますが、クレーンを積むと言うよりは、落としているイメージに近いのです。

時速35㎞でも0.05秒で止まれば20Gです。瞬間的に止まるので20G以上の大きな加速度がかかるのです。

ただし、瞬間的に20Gかかると言うだけで、梱包品に与えるダメージは20Gが長くかかっている訳ではありません。瞬間的に大きなGがかかる方が長くかかるよりはやはりダメージは少ないです。

物理的な話をすれば、衝撃力は力積、単位時間当たりの力で表されるので、重さ、質量も影響して来ます。

トラック輸送中にかかる加速度は1G程度しかかからないの?

急発進、急停止に伴うGは確かに1G程度しかかかりません。しかし、海外でよくみられる道路上の段差や、日本でも歩道に乗り上げるようなことがあると、縦(Z方向)に大きな加速度がかかることが有ります。

急停車することで荷物が動いてしまい、急に止まるような力がかかると、水平方向でもやはりそれなりの力はかかります。

トラックの上下振動は、エアサス車と板バネ車では全然違います。板バネ車ではひどい時には5Gを超え10G近くの値が出る事もあります。しかし、エアサス車では半分程度に軽減されます。

エアサスのトラックは割高なのと、日本では比較的、エアサスのトラックは多くありますが、韓国や中国などは基本板バネ車です。

また、コンテナーを運ぶ専用車は基本板バネ車板になります。

輸送中の衝撃、振動の影響を防ぐには?

実際に何が起きているのか良く観察することが大切

製品を細い紐で括り付けるような事をすれば、局所的に非常に大きな力が発生します。コンテナーの20G以上の大きな衝撃で荷固めが緩み、輸送中の急発進、急加速で荷物が動いてしまうようになると、大きな力が加わったりします。

液晶のガラスを送る際にガラスが割れる原因で一番多かったのは、ガラスを梱包する前、あるいは、開梱した後でガラスの端面を作業中にガラスをカバーするプラスチック段ボール等を接触させてしまっていたことが原因でした。

軽くあてただけでも応力が集中しているので割れてしまいます。この時は作業者の方に実際に体感してもらって納得してもらうことで割れを低減することが出来ました。

怪しいと思う工程で実際のどのような事が起きているのか、スルーモーションでビデオをとったり、製品で局所的な力を受けそうな所が受ける力を直接測定して何が起きているのかをよく理解することが大切になります。

私が、ガラス破損の対策を行った時の内容は記事にしていますので良ければ参照ください。

荷固めをしっかりする。

結局、製品が動いて急に止まる時、あるいは、逆方向に動く時に大きな加速度が働くので、製品が動かないようにしっかり固定するしかありません。荷固め用のベルトはしっかり止める事が大切になります。

引っ越しの荷物などを段ボールに入れて運ぶときは、緩衝材をたくさん入れると思いますが、隙間なく、入れるのが結局大切になると思います。特に4隅は隙間ができやすいのではないでしょうか?

その際に、製品にかかる応力は局所的に大きな力がかからないように考える必要は当然出て来ます。

私は段ボールを使った梱包での試験をしたことは有りませんが、おそらく、取り扱いで4隅をぶつけるとか、そういった際の衝撃で破損することが多いのではないかと推定しています。

ただし、荷固めをしっかりすると、開梱時に荷がかかると開梱がしにくくなる機構では開梱できなくなる事もあります。

そのような場合は力を逃がしてやる機構を考える事も大切になってきます。

共振に気を付ける

振動による共振は避ける必要があります。単体の評価だけでなく、段積するような場合は上の方に積まれたものは共振が顕著に作用しやすいので注意が必要です。

防振ゴムの使い方に気を付ける。

市販の防振ゴムなどの衝撃吸収シートも市販されていますが、使い方を間違えると逆に衝撃が大きくなることが有るので注意しましょう。

防振シートを引くと荷固めをしっかりとしても輸送中の振動で防振シートが振動を吸収しても、荷固め用のベルトが緩んでしまうので、結局、衝撃はより大きくなったりします。

トラックの積載位置に気を付ける

トラックの場合、後輪の上が一番大きな衝撃がかかります。引っ越しなどで荷物を積み込む際に、積載位置を指定できるのであれば後輪の上は避けるべきでしょう

実は、輸送中よりも、荷扱いの方が危ない

実際には、輸送中よりも荷扱いの方で大きな衝撃を与えてしまう事が多いです。フォークリフトの取り扱い、あるいは、作業者の荷扱いが丁寧かどうかで大きな力がかかります

輸送試験や振動試験、想定される荷扱いを再現して製品にかかる力を測定すると荷扱いの方が大きな力がかかっている事が確認できます。

しかし、空港の荷扱いや港の荷扱いなどの作業者の方のレベルを上げるのは無理な話です。輸送業者の社員さんが扱うわけではありません。

こちらで出来るのはハンドリング回数を減らすことぐらいです。トラックなどは大切なものを運ぶのであればチャーター便にした方が良いでしょう。日本でトラックをチャーターした場合は、作業者の教育も可能でしょうから、問題が多ければ、業者さんを変えるとトラブルが減るかもしれません。

コンテナーに積み込むのは、自社で積み込むことが出来るのでまだ、ある程度作業内容も管理できるでしょうが、飛行機に積み込むのはもう管理できません。

荷扱い対策はどうすれば良いのか?

荷扱いの改善が期待できないのであれば、荒い荷扱いを前提として梱包仕様、荷固め仕様を考えるしかありません。

段ボールなど、人が取り扱えるような物であれば、JISで落下試験なども定められているので、それに準じて評価をして問題ない梱包仕様を決めれば良いでしょう。

しかし、フォークでないと取り扱えないようなものは、そもそも、JISで定められているような落下試験は出来ません。

実際のハンドリング状況を確認し、その状況を再現するような試験方法を考え、問題ない梱包仕様を決めて行く必要が出て来ます。

製品の品質悪化

振動、衝撃

すでに述べたとおりです。

高温多湿

特に船の輸送の場合は注意が必要です夏場はコンテナーの内部は70度以上になったりします。クッション材は紙であったり、発泡樹脂だったりするので、その中の樹脂分が製品に転写することが多くなりますので注意が必要です。

また、出荷前の工場でも、長期保管品はそこまで温度が高くなくても汚れが転写するので注意が必要です。

実際の対策としては、そういった汚れの転写が少ないクッション材を採用するしかありません。実際のどういった成分が転写するのか、環境試験を実施して確認する事が大切になります。

結露

水について考える:露点とは?|技術サポート|露点 水分管理のテクネ計測 (tekhne.co.jp)より

夏場でも温度差があれば発生するのですが、主に発生するのはやはり冬場です。

結露は右の図のように、気温Aの暖かい部屋に、露天点より低く冷たい製品(表面温度C)が暖かい空気に触れると、製品の近くの温度がCまで下がり、それにより、飽和水蒸気量を超えたものが、結露となって、製品に水滴となって現れると言うものです。

結露対策として乾燥剤を入れてそもそも空気中の水分量を少なくする対策が良く取られます。

しかし、例えば、トラックやコンテナ内部の湿度をコントロールするには非常に無駄が多く、お金もかかることになります。

なので、製品に乾燥剤を載せて、製品のみをコンパクトに梱包するような対策が取られます。しかし、結局、梱包材の隙間があると、乾燥剤はすぐに吸水能力がなくなるのでこれも難しいです。

しかし、乾燥剤での対策が一番問題なのは、開梱して、冷たい製品が暖かい空気に触れた瞬間に、結露が発生しますので、開梱時に温度差があれば意味がない事になります。

韓国や中国の北部など、冬場は-20度あるいはそれ以上に寒くなります。輸送の温調機能付きのトラックがあるのでそれを使うとか、開梱する前に、少し暖かい部屋に保管しておいて、温度を少し上げてもらうとか、そういった工夫をお客さんにお願いすることが必要になってきます。

まとめ

  • 製品の破損
    • 輸送中の衝撃を少なくするには、荷固めをしっかりとすることが大切となる。
    • しかし、輸送中の衝撃よりも、フォークによる荷扱いなどの、荷物の取り扱い時に輸送中よりも大きな力がかかるのが多い。
    • しかし、作業改善を期待するのは現実的には難しい。
    • 段ボールで取り扱えるような荷物であればJISの落下試験で評価をして梱包仕様を決めると良い。
    • フォークリフトでないと扱えないような重量物は、実際に行われている作業をよく確認し、疑似試験を行い、梱包仕様、荷固め仕様を決める事が大切になる。
    • 実際のどのような事が起きているのか、スルーモーションでビデオをとったり、製品で局所的な力を受けそうな所が受ける力を直接測定して何が起きているのかをよく理解することが大切になります。
  • 品質の悪化
    • 夏場、特に船による輸送はコンテナー内は70度以上の高温になる事がある。
    • クッション材から樹脂分が転写しないよう、適切な梱包材を選定することが大切になる。
    • 冬場は結露に注意が必要である。乾燥剤で湿度コントロールしても、開梱した時に温度差があればやはり結露は発生する。
    • 温度差が生じないような方法を考える必要がある。

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