技術者として仕事をすると、自社の技術が他社の特許に抵触していないか(他社の特許権を侵害しているか)判定を求められます。初めてその仕事をした時の悩みを思い出して以下にまとめてみました。
抵触/非抵触の判断方法を説明した後で、最後にこの悩みを解決したいと思います。
特許の抵触、非抵触の判定方法
独立項を抜き出し、内容を確認する
【特許請求の範囲】は請求項(クレーム)で示されること。また、請求項にはそれだけで独立している独立項と、それよりも前の請求項をさらに規定した従属項からなる事を前の記事で紹介しました。
従属項には、必ず「請求項○○記載の××」といった記載があります。
例えば請求項1記載の制御システム等、請求項○○記載の文言が請求項の説明に書かれていたら、迷わず、従属項と判断してかまいません。
独立項と従属項の特許範囲をイメージで記載すると右のような図になります。
従属項はそれより前の請求項をさらに限定して範囲を狭くするので、特許範囲は独立項が一番広く、従属項の特許範囲はそれよりも狭くなります。
従って、独立項の青く塗りつぶした権利範囲の「内側か、外側か」を判定するのが「抵触か、非抵触か」の判定になります。
ただし、何事にも例外があるように、従属項でも独立項の構成要素を置換したような場合には、必ずしも従属項の方が権利範囲が狭いとはならない場合も可能性としてはあり得ますのでその点は注意が必要です。
例えば以下のような場合ですが、非常に珍しいケースになります。
【請求項1】 歯車伝動機構を備えた特定構造の伝動装置
【請求項2】 請求項1記載の伝動装置において、歯車伝動機構に代えてベルト伝動機構を備えた伝動装置
*請求項1の「歯車伝動機構」を、請求項2において「ベルト伝動機構」に置換しています。
この場合、独立項の請求項1のみで確認すれば、ベルト伝導機構は範囲外になりますが、請求項2では範囲内になってしまいます。
ただし、このような例は私は実際には見た事はありません。
特許庁発行 PDF、第 II 部 明細書及び特許請求の範囲より
請求範囲は請求項記載の構成要素を確認する。
何の特許かわかりますか?有名な中山伸弥教授のiPS細胞の数ある特許のうちの一つです。さすがノーベル賞の特許ですね。従属項がない。請求項の記載が非常に簡潔です。
この特許を例に出したのは、請求項が簡潔で説明しやすいから選んだに過ぎません。尚、以下の説明は特許上の説明で、医学的な知識はゼロで書いています。お話として受け止めてください。
構成要素の対比を行い、違いが有るか無いかを調べ、抵触/非抵触の判断を行う。
上記のように、構成要素3だけ違いがあり、自社は3種類の遺伝子で同じことをやっていたとしましょう。この場合、自社技術は抵触しているでしょうか?答えは非抵触です。4種類と3種類で違うからです。
それでは次はいかがでしょう
今度は逆に1種類多く、5種類です。iPS細胞と同じ4種類より遺伝子○○が追加になっています。この場合はいかがでしょうか?答えは抵触です。
どうして?4種類と5種類で全然違うじゃない。と思わなかったですか?
何故なら、iPS細胞の特許に記載されている項目を自社技術では実施しているからです。
遺伝子○○はiPS細胞の特許には記載されていないので、○○が有ろうが、無かろうが抵触/非抵触には一切関係ありません。4種類は同じものを使っているので抵触です。
仮に同じ4種類でも、Oct3/4ではなくOct1/4(そんな物あるかどうか知りませんよ)を使っているとすれば非抵触になります。
請求項に記載されている言葉の意味が分からない場合は明細書でどのように記載されているか確認ください。この特許内でどのように使われているかで、違いが有るか無いか判定してください。
初期の悩みに対する回答
2、請求項の内に書かれている構成要素の内、一個だけやっていないのは、間接侵害の可能性もありますが、知らないうちに改良し、他社の特許に抵触してしまう可能性もあります。そういった意味でも関係者で共有する必要があります。
間接侵害、均等論に関しては、ここで説明すると長くなるので、以下の記事を参照ください。
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