事業に役立つ攻めの強い特許とは?基本特許、当たり前特許、他社の改良特許についてわかりやすく解説します。

特許の本質、強い特許、攻めの特許、守りの特許

初めに

 特許権とは独占的排他権であり、第3者に勝手に使わせない権利であると以前の記事で紹介しました。

特許はその本質からして、「攻めに対しては強力」ですが、「守りには弱い」と言えます。

定義
  • 攻めの特許:他社に勝手に使わせない。権利行使に使う事を目的とした特許
  • 守りの特許:自社で実施している内容を確実に実施できるようにする特許

 上の図は、「特許は攻めに対しては強力だが、守りに弱い。」をイメージとして図示したものです。

よく特許を書く際に特許範囲は広い方が良い。と言われます。確かにそうなのです。攻撃として見た場合には、他社が実施している確率が高まりますし、守りの場合、守備範囲が広がります。

♦特許が守りに弱い理由

しかし、いくら守備範囲が広くても、一つの特許だけで他からの攻撃を防ぐのは現実的ではありません。複数の特許で全体をカバーする特許網の考えが大切です。

また、場合によっては後願排除を目的として公知化を検討したり、先使用権という特許とは別の対策を考える必要が守りの場合必要になります。

特許が攻めに強い理由

一方、特許権を行使し、相手を排除する場合は、たとえ一つの特許でも、他社が侵害していれば、それだけで、排除することが出来ます。

先方は回避するように工程変更や設計変更を考えなくてはなりませんが、基本特許であったり、当たり前特許であったり、権利範囲が広い場合は回避するのが困難です。

なので、攻撃に特許を使う方が、実は遥かに効率的なのです。

攻めの強い特許

攻めの強い特許とは?
  • 権利範囲が広く、権利侵害が検証し易く、無効になりにくい特許
    • 基本特許
    • 当たり前特許
    • 他社が実施しそうな特許。(他社の改良特許)

権利範囲の広い特許

 権利範囲は、請求項に記載されている事以上でも以下でもないので、端的に言えば、独立項の構成要素の少ない特許が権利範囲が広い特許と言えます。

 広い範囲がカバーできるので、攻めの特許にとっては、権利範囲が広い事は大きなメリットです。

権利範囲が広い特許の書き方については以下の記事を参照ください。

検証し易い特許

 簡単に言えば、「見ればわかる次が「調べればわかる」ですね。一般に物の特許は検証性が高く、生産方法の特許は検証性が低いと言われています。

 しかし、現物を調べれば生産方法が推定できる場合や、2019年から検証制度(立ち入り検査)が認められるようになりました。制約は色々あるようですが注意が必要です。

検証できない特許は、折角、他社が侵害していても情報提供しているだけに終わる場合もあります。そうなると、逆に事業に悪影響しか与えない場合も出てくるので注意が必要です。

無効になりにくい特許

 特許は審査の段階で、必ず、引用文献を引いてきて、○○に××と記載されているから、特許にならない、といった方法で審査します。

 ですので、「引用される文献が少ない特許が無効になりにくい特許だ」と言えます。具体的にはノーベル賞級の発明などは、前例がないので無効化出来ない。(逆に言えば無効化出来るような発明はノーベル賞にならないでしょうが)

 あるいは、新しい分野、特許の出願活動が盛んでない分野、ライバルが少ない分野が思い当たります。

 上記は一般的な話で実際には新規性/進歩性の対策が重要です。長くなるので別の記事で紹介します。

基本特許

上記のiPS細胞の特許などは典型的な基本特許です。ネットで見てもあまりいい例が無いのですが、おそらく、「磁気テープ」や「ICカード」などは当時はそれをしようとすると必ず抵触するような特許だったのでは?と推察致します

当たり前特許

 誰もが実施している当たり前の事を特許にしたものです。技術的には基本特許に比べて無論、遠く及ばないですが、当たり前の事しか書かれていないので何かしようとすると必ず抵触してしまい避けることが出来ない特許です。そういった意味では特許的には基本特許と同等の強い特許と言えます。

当たり前特許は、特許としては非常に強力な特許になります。

例えば以下のような特許です。

 マニアックな例になってしまいましたが、上記の特許は非常に特許範囲が広く、当たり前の事しか書かれていません。

当たり前の事なのでどのメーカーでも実施しており、強力な特許になります。

でも、当たり前の事って特許にならないんじゃないの?

そう、その通り。新規性/進歩性が問われます。ただ、同業他社から見れば当たり前と思われることで特許になっているものなどいっぱいあります。

どのように、新規性/進歩性を絞り出すかについては、新規性/進歩性の所で解説してます。参照ください。

  • ポイントは
    • あなたが当たり前と思って実施している事は、そもそも何のため、どんな課題を解決する為に実施しているのでしょう?
    • その技術課題は過去の特許に記載されていますか?工夫は過去の特許に記載されていますか?

でも、当たり前な特許って無効化されないの?

当然、他社から見れば、潰したい特許なので潰される機会が増えるのは仕方がありませんただ、潰すにはエビデンスが必要です。

 一度、特許として成立しているだけあって、エビデンスを見つけ出すのは難しく、思うほど簡単ではありません。当たり前の特許だから潰しやすという事はなくて、本気で潰したい人が多いだけ。といった印象を私は持っています。

他社が実施しそうな特許(他社の改良特許)

 こう書くと、抵抗がある方もいるでしょう。私もそうでした。何故なら、特許は自社の技術を守るために出すものだと思っていたからです。邪魔をしている印象が拭えなかったのです。

 しかし、特許権、特許法の目的から見ても、公開された特許を基に改良特許を考える事は、本来の特許法の目的に則った、まっとうな考えです。

 考え方を変えて、他社の改良特許を出しましょう。さらに言えば、他社が実施している内容で特許化できて検証できる内容であればもっと強力です。

♦冒認出願について

 簡単に言えば、発明を盗む行為です。他社が実施していることを、何らかの方法で知りえたとして本来の発明者と別の人が出願することを知財業界では冒認と呼ぶようです。特許にならないばかりか訴えられますので当然ながら止めましょう。

 一方、業界では共通の課題があり、同じような特許を他社も同じようなタイミングで出してくることもあります。あなたが盗まれたと思っても、向こうも盗まれたと思っているかもしれません。慎重に対応しましょう。

まとめ

攻めの強い特許とは
  • 権利範囲が広く、権利侵害が検証し易く、無効になりにくい特許
    • 基本特許
    • 当たり前特許
    • 他社が実施しそうな特許。(他社の改良特許)

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