中小企業のメーカーさんで、大手の開発品の依頼を受けたいと思われている社長様に役立つよう、大手メーカーの開発担当者が見る選定基準、および、多くの中小企業さんと接していて感じる認識のずれを紹介して行きたいと思います。
私はガラスの梱包容器や梱包材の開発を15年以上担当していました。
また、コンピューターのハードディスクの事業に従事していた時には、開発部に所属しながら品質保証部も兼務し、新規基板の認定業務、受入検査方法の構築を1年半程担当し、10社近くのサプライヤー様と仕事をしてきました。
コンピューターのハードディスクの時に関係していたサプライヤーさんは大手と呼ばれると頃が多かったので、それほど大きな認識のずれは感じませんでした。
しかし、容器開発で多くの中小企業の方々と直接接するようになると、大きな認識のずれを感じる事が多くありました。
普通のサラリーマンよりははるかにサプライヤーさんと深い関わってきたと思っています。その経験から、ご紹介したいと思います。
大切なのは、装置と人
梱包容器の製造メーカーさんは韓国や台湾、日本国内の中堅企業さんにお願いしていました。間に商社さんに入ってもらうのですが、実際に一緒にやっていくには、どれだけこちらの思いを汲んで対応してもらえるか?という事が大切になります。小回りが利くのと、社長さん、あるいは、担当窓口の方の能力が非常に影響します。
私自身、どれだけ助けられたか分かりません。
品質、コスト、納期なども大切ですが、品質はこちらの希望する要求水準を明確に伝え、レベルアップしてもらえれば問題ありません。
私が、お付き合いしてきたメーカーさんも、QMSって何?トレーサビリティーって何?といった感じでしたが、一緒にレベル向上を進めて行きました。
「初めは、色々うるさい事を言ってくる人だと思ったが、品質保証だけでなく、ラインがシンプルになり、工場としての実力も上がった。非常に感謝している。」との言葉をいただき、私も大変うれしかった記憶が有ります。
一方、ガラスのクッション材として使用する紙などは装置産業なので、工場見学でしっかりポイントを確認する事が大切になります。窓口の姿勢も大切なのですが、装置相手なので、やはり対応出来る事には限度が有ります。やはり、装置産業では装置が大切で、改善する、としても限度が有ります。もちろん、装置産業でも人の力は大切なのですが、人の力だけでは何ともならないところが有ります。
人、装置以外のポイント
開発を一緒にやろうとする購入側から見たポイントとして、概して中小企業の方とで認識のずれが大きい部分を紹介します。
価格や短納期、他社への実績、資材から見れば財務状況などもポイントになるでしょうが、この辺りはあまり認識のずれは無いので割愛します。
情報管理能力
購入する側としては、開発品の情報がサプライヤーさんから外に漏れる事を非常に心配します。良く、他社さん向けの図面など、社名が入った形で現場に放置しているようなサプライヤーさんが結構います。他社さん向けの汎用品なので、とあまり気にしていないように見受けられますが、NGです。
また、組み立て工場の場合、材料の加工を外注に出すような場合、依頼元の名前は出さないなど、それなりの対応をいただく必要が出て来ます。
品質保証管理システム
品質管理システム(QMS)は購入する側としては痛い目を見ているので非常に気にします。通常お客様の要求する品質保証管理システムを構築しない限り商売相手として見てもらえません。
品質は現物が良ければOK。クレームは返品してもらって現物を調べれば良いと認識されている方が、結構いらっしゃいます。
ISOの認定の有り無しは私は、といった方が良いかもしれませんが、こだわりません。ISOの認定を取っていても形骸化し、有効に機能していない会社はたくさんあります。
お客様の要求している事を理解して、有効な管理システムを構築することが大切になります。
工程管理能力
私が一番に気にするのは、トレーサビリティー がしっかり確保できるように識別がしっかりと出来ているか?といった点を気にします。その為、基本となる5S、(整理、整頓、清掃、清潔、躾)は気になります。
見栄えの問題ではありません。パット工程を見て、Lot単位の識別が出来ているか。仕掛品がどういった状態であるのか、等がパッと見て分かることが大切になります。
知的財産
サプライヤーさんと共同で新しい物を開発するような場合は知的財産の取り扱いを明確にしておかないと、後々揉めることになります。
一般には、共同で新しい物を開発するような場合は共同開発契約となるものを結び、開発の内容、役割分担と費用負担、成果物の取り扱いなどを決めて行くのが普通です。
しかし、実際に契約を結ぶとなると、お互いの利害が有るためなかなかまとまりません。共同で開発を進める際は、色々協議しながら進めるのですが、その結果得られた成果物はどちらの物か?を決めるのに揉める事が良くあります。100対0とはならないからです。
どのような契約にするにせよ、これは、私たちの技術だ!と主張したい場合には開示する前に関連する技術の特許は出願しておく事が非常に大切になります。
数量保証
知的財産の取り扱いもさることながら、揉める事が多いのは数量保証。一緒に開発したのだから、購入する側からすれば出来るだけ他社には売らないで欲しい。一方、売る側からすれば自由に商売がしたいとなるはずです。
実際に、発明が完成する前に協議をすることが多いので、お互い、取らぬ狸の皮算用をしているようなところがあるのでまとまりません。
数量保証で購入する側が何らかの縛りを入れられるとすれば、その開発に購入側はどういった役割を果たし、貢献したか、お互いに了解を取っておく事が非常に大切になります。
サプライヤーさんのサンプルを評価しただけでは縛りは入れられないでしょうが、購入側で開発した評価技術などをサプライヤーさんに開示し使用してもらった場合、その使用に関しては当然縛りを入れたりライセンス契約とするべきです。後で、色々揉めるので、結局、このような場合、開示前にやはり特許出願はしておいた方が良いです。
良くあるのが、購入する側は、開発終了後、例えば3年間は他には売らないで欲しい。等と要請した場合、サプライヤーさんからは、それであれば、数量保証して欲しい。等となるのが通例です。
その時に、お互いの貢献度をベースに協議をするのですが、数量保証や知的財産の取り扱いが明確にできず、開発と並行して協議するような場合、最終的に決裂するようなケースも出て来ます。
担当者間の合意では、話など簡単に覆ります。初めに契約をしっかり結んでおく事が非常に大切になります。
開発契約
共同開発契約は、上記のように、知的財産の取り扱い、数量保証で揉める事も多く、また、契約が締結されれば身動きが取れなくなることもあります。
契約は、その都度、適切な契約を結ぶのが大切になります。
片務契約
開発や設計の結果の所有権、知的財産権は開示する側にある事を前提として、片務の機密保持誓約書を提出してもらう。といった方法が有ります。
一見、非常に無茶な要望のように見えますが、私は梱包容器を作るメーカーさんとは、設計の段階から色々協議をするのですが、すべてのサプライヤーさんに、この片務の機密保持誓約書をお願いしていました。
すでに公知公用の物、開示を受ける側の責によらず公知公用となったもの、自社の独自の技術で開発したと立証できるものは適用外とするのが通例です。
一般に、片務契約は、購入者の専用装置の開発となるので開発品が完成しても公知公用には通常なりません。
購入者との関係性は悪くなる。特許リスクは残る。等の問題は残りますが、仮に設計が完了し、開発品が公知公用となった場合は、他社から公知となった商品の生産依頼があった場合に契約上は作ることは可能になります。
設計、開発が終了した結果の所有権、知的財産権は購入側にあるので、購入側が第3者に作らせることは可能になります。そこは、設計費や開発費を十分回収できる方法を機密保持契約とは別に協議することになります。
後々、揉めないために、設計費や開発費は量産品で回収するのではなく、都度清算するのが望ましいです。
独自に開発した技術をその案件に使うのであれば、それは当然開発した側に所属することになりますので、その旨宣言して、他社向けに使えば良い事になります。
双務契約
実際、既存の材料や、物を改良して行くような場合は双務契約になります。上記に記載したように、基本的に材料の売り手に購入側が何らかの縛りを入れたい場合は、例えば、評価技術で購入側の独自の技術を使用するよう場合はその旨、契約に盛り込んだり、ライセンス契約を考える必要が出て来ます。
まとめ
- 大切なのは人と装置
- 中小企業と大手から見た場合の認識の違いが多い所
- 情報管理能力/品質管理システム/工程管理能力
- 共同で開発するような場合は、知的財産の取り扱い、数量保証で揉める事が多い。
- 相手に開示する前に、関連技術の特許は出願しておく事が大切
- 契約は初めに結んで、知的財産、数量保証など明確にしておく事が大切
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