組織のメンバーとして必要最低限必要な力量と、個人個人の能力/現状/希望に基づいて個別に延ばすべき能力と区別して考える事が大切になると思っています。以下説明して行きます。
設計/開発業務に必要な力量、スキルとは?
ISO9001では組織に以下の事を要求しています。
- 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする。
- 適切な教育、訓練又は経験に基づいて、それらの人々が力量を揃えていることを確実にする。
- 該当する場合には、必ず、必要な力量を身につけるための処置をとり、とった処置の有効性を評価する。
- 力量の証拠として、適切な文書化した情報を保持する。
言われている事は良く分かるのですが、設計開発業務において必要な能力、スキル、力量とは何なのか?を明確にするのは決して簡単ではありません。
設計開発に必要な作業の力量
一番わかりやすいのは資格が必要な作業、溶接とか、電気工事とか、玉掛、フォーク作業など、資格や特別な教育が必要な作業を洗い出すことは簡単で、特に製造現場などの作業者においてはどういった資格が必要か洗い出しておく事は必要です。
開発、設計でも必要な作業は必ずあります。例えば、CADが使えないと図面は書けないでしょう。実験装置を適切に使えないと実験できませんし、評価するにしても評価装置などが正しく使えないと評価できないです。
そのような作業は以下のようなレベル評価をするのが一般的です。
- レベル4:指導ができる
- レベル3:一人で実施できる
- レベル2:指導を受けながら実施できる
- レベル1:補助ができる
評価項目をリストアップしておいて指導者がチェクしてレベルを決める、あるいは、テスト(実技、筆記)を行う。自己申告してもらって面談でレベルを決める。指導員が判断する。等色々あります。
エンジニアに求められる力量とは?
設計/開発のエンジニアに求められる力量は何か?となると、そのような作業が確実に出来る事だけではないはずです。そもそも設計/開発を進めるためには作業が出来るだけでは不十分です。
それでは必要な力量とは何でしょう?
日本語で言えば、○○力と言えば、何となく能力を定量的に示しているように感じてしまいます。
「設計現場力」25のポイント 企画から生産準備までの設計プロセスを改善する 日刊工業新聞社 郷保直によれば、市場・顧客理解力や技術動向理解/判断力、新製品創出力、のイノベーションの視点からからはじまり、スピードの視点、コストの視点、品質の視点、人/社会の視点から25の能力が提案されています。
ISO9001の要求事項から考えれば、
- 顧客/関係者から要求事項を洗い出すコミュニケーション能力/プレゼン能力、
- 品質要求事項の具体的な技術目標への展開力、
- 設計計画/レビュー力
- 固有の技術力、
- デザインレビュー/設計検証力、
などとも言えそうです。
私が思うに、一般的な設計開発のエンジニアに必要な能力は何か?といった議論になるとそれはそれで大切だ、とは思うのですが、それを必要な力量としてしまうと、機能しない物になると思います。
そもそも、必要なものとすると、まず、意見がまとまりません。本人の価値観もあるでしょう。メンバーの得意不得意もあるはずです。
そもそも必要な能力(力量)とするからには、少なくともリーダーは十分な能力を持っている必要が有るでしょう
しかし、リーダー自身もそもそも能力が十分かとなると?マークがつくのではないでしょうか?そのあたりを上手く適材適所で考えて行くのがマネージメントの仕事になってきたりもします。
望ましい能力は個別に、必要な技術はメンバーで共有
つまり、その組織として必要な力量は土台として、全員がその力量を持っている事、必要な事を決め、より望ましい能力は、個別に上長と相談しながら決めて行くのが良いと思います。
この辺りを概念的に示したのが下の図です。
設計開発にとって必要な力量(土台)とは?
設計開発の手順/手続き、それに伴う情報の取り扱い
標準化は本来、設計開発を効率的に進めるのと、属人化を防ぐのが目的だと考えています。
具体的な設計内容はつど変わるかもしれませんが、手順/手続き、それに伴う情報に関しては標準化しておかないと、都度、手続きから議論して行く事になり時間の無駄です。
情報はまさしく設計開発を行うのに非常に大切な道具です。道具は誰でもすぐ使えるように整備しておく必要が有り、そのためにも、標準化しておく事が大切です。
標準化されている内容は当然、組織のメンバーで共有化する必要が有り必要な力量となります。
最低限必要な固有技術/専門知識
力量と言われれば一番イメージがつきやすいのが固有技術/専門知識です。
しかし、全員が共有すべき必要な固有技術とはなんでしょう?無責任なようですが、これに関しては、関係者で協議をして決めて行くしないと思います。
例えば、ガラスの加工技術を開発する際には、加工の原理、副資材(砥石や研磨パッド、砥粒)などの種類と役割、特性に及ぼす影響、過去の研究例などです。
設計の場合であれば、製品の構造や仕様、過去の不具合例、などが挙げられるでしょう。仕事内容に応じた電気的、機械的な素養も必要でしょうし、部品や部材に関する知識も必要でしょう。
実験を考えるような場合は品質工学あるいは実験計画法などが組織には必要だと思えば必要な力量とすればよいでしょう。
しかし、これらは知識ですので、必要に応じて勉強し直すことも可能ですし、開発にどう生かすかは本人の能力次第という所が有ります。
そこは、本人の個別の能力と割り切ることが大切かと思います。
評価方法に関しては作業同様、以下のようなにレベル分けして評価しましょう。レベルの定義つけも関係者で協議して決めれば良いと思いますが、一例としては下記の通りです。
レベル4:指導ができる
レベル3:十分活用できる
レベル2:指導を受けながらでないと活用できない
レベル1:そもそも知識がない
スキルマップ/力量マップ(力量管理表)
個人個人について、組織として必要な力量に対してどのレベルにいるかをまとめたものがスキルマップ、あるいは力量マップ、力量管理表と呼ばれるものです。検索すればすぐに出て来ます。
教育/訓練
スキルマップから、必要な力量を習得していない人は教育、訓練を行う事になります。
新入社員や転勤者に何を導入教育とするのかについても明確にするためにスキルマップは役立ちます。
一方、組織として必要な能力を取得してしまうともう伸ばす能力はないのか?教育/訓練は必要ないのかとなるとそんなことは有りません。
一般的な設計開発に必要な能力を自分の現状の能力/本人の希望からこういった能力を伸ばしたい。といった事を上長と相談し、個人個人、個別に必要なアクションを決めてレビューして行く事が行く事が非常に大切になります。
私が勤めている会社でも、年に一回、自分が伸ばしたいと思っている能力を上長と相談し、具体的にな実施項目を決めて行く。1年後、その結果をレビューする。といった事をスキルマップとは別に実施しています。
まとめ
- 組織に必要な能力(力量)を明確にし、メンバーに教育/訓練、経験などを通じて必要な能力が確保できるようにすることが大切となる。
- 組織として必要な能力は、メンバー全員が取得すべき最低限の知識/技能と個人個人の状況に応じてさらに伸ばすべき能力と区別して考える事が望ましい。
- 土台となる最低限の知識/技能は標準化されている設計開発の手順/手続き、それに伴う情報の取り扱い。それと、最低限必要な固有技術の専門知識、装置や実験装置の取り扱い方法からなる。
- 最低限必要な固有技術の専門知識は関係者で協議して内容を決める事が大切になる。
- 個人個人が個別に延ばすべき能力は本人と上長で個別に協議し、アクションを決め、レビューすることが大切になる。
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