アイデア出しの常套手段として、ブレーンストーミング(一般にブレスト)と呼ばれる方法が有ります。
あまりに有名すぎて、私がコメントするまでもないと思われますが、個人的に開発のアイデア出しでブレストが有効であると思った事が有りません。
それよりも、1対1で自由闊達な議論をした方が遥かに有効であるであると感じていす。
一方、品質問題の原因追及等のように、広い範囲から、原因を絞り込んでいくような場合は、複数名でやはりブレストをするのが有効と思っています。
今回、私が経験から感じていたブレーンストーミングの問題点を的確に説明している図書を見つけましたのでその内容も紹介したいと思います。
開発のアイデア出しにブレストは有効?
念のためにブレストについて説明すると、複数の参加者で自由にアイデアを出す手法で皆さんも経験されていると思います。
開発のアイデアを生み出すには、自分が想定している範囲内には答えが見い出せないので、想定範囲を広げる事が必要になります。(左図参照)
新しいアイデアを生み出すのは直感やヒラメキが大切です。論理的に考えていれば想定範囲内の外には出られません。
そういった観点で考えればブレストは発想が活性化され、アイデア出しには良いかもしれません。
しかし、アイデアはあくまでもアイデアです。実際には現実性を検証して行かなければなりません。
ブレストが開発のアイデア出しに向かない理由は、アイデアを吟味することなく、アイデアを出すことが主目的になるので、検証が行えないままアイデアがどんどん先行して行く事になるからです。
検証は後から行えばよいと思われるでしょうが、現実的に色々出てきたアイデアの中で、どのアイデアを検証していくか決めて行く事になります。
しかし、品質問題の原因調査のように、既にデーターがあるわけではありません。頭の中で仮想実験を行い、現実的かどうか考えて行く事になります。(仮想実験をするには、やはり専門知識も必要です。)
ブレストは、その場ではそのような考えもありかと思いながら、改めて考えてみると単なる思い付きに過ぎないアイデアだったり、開発者が?と思うような内容であっても、そのブレストの場で検討しようとなった場合、確固たる否定理由がない限り否定できないでしょう。
結局アイデアに振り回されやすくなるのが、開発のアイデア出しにブレストが向かないと思う一番の理由です。
ブレストで得られたアイデアは一回、開発者が良く考えた上で再び議論が出来るのであれば有効かもしれませんが、複数のメンバーでそれを期待するのは難しいのではないでしょうか?
開発のアイデア出しに関しては、別の記事にまとめていますので良ければそちらも参照ください。
1対1の議論が開発のアイデア出しに有効な理由
実際、複数人数でブレストをするよりも、普段の同僚(上司もOK)との会話の中で、思いつくまま意見交換を行い(二人ブレスト?)を日常会話として実施する方が遥かに有効と感じています。
二人ブレストであれば、複数のメンバーで行うブレストによるアイデア出しの効果も期待できるし、出てきたアイデアについても自由に議論できるようになります。いかがでしょうか?
品質問題の原因追及にはブレストが有効
開発のアイデア出しのように、想定範囲を広げてその中から解を見つけて行くような場合にはブレストは向かないと思っています。
しかし、左図のように、想定範囲を広げるのではなく、ロジカル・シンキングなどにより絞り込んでいき解を見つけて行くような場合はブレストは非常に有効だと思っています。
なぜらな、個人の想定範囲(知っている事)には限界があるので、想定範囲を広げるためにも複数人でブレストする事が大切です。
想定範囲が広くないと原因追及には漏れが生じます。
開発のアイデアの場合と同様、出てきたアイデア(仮説)は議論しなければなりませんが、状況証拠(データ)をベースにロジカルシンキングに代表されるような論理的な議論が想定範囲から絞り込んでいくような場合には複数人でも可能となります。
逆に、想定範囲を広くしておかないとどうしても漏れが出るので、やはり、複数のメンバーでブレストする事が有効だと思います。
具体的な品質問題の追及方法は別の記事にまとめていますので、良ければそちらを参照して下さい
自分の発想力を高めるには?(参考図書より)
「メタ認知 あなたの頭はもっと良くなる」 中公新書ラクレ 三宮真知子著(大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授)に私の想いを代弁してくれているような記載があったので紹介いたします。
(ブレーンストーミングによって)他の人がどんなアイデアを思いついたのかを知ることは大切ですが、先に人の考えを聞いてしまうと、どうしてもそれに影響されてしまい、自分で徹底的に考える事をしにくくなる可能性が有ります。
従って、自分の発想力そのものを高めるためのトレーニングは、やはり個別に行う必要が有ります。(中略)私たちは、他者の考えに触れる機会を確保しつつ、個人の発想力を高めるトレーニング法を開発しました。まず自分で、これ以上は無理というまで考えた後で、他者の考えを色々と呈示する方法です。(中略)「まずは自分で限界まで考えてみる→他者の考えに触れる。→自分の考えを見直す」という事を繰り返すトレーニングです。
メタ認知 あなたの頭はもっと良くなる 中公新書ラクレ 三宮真知子(大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授)著、P132~133より
著者の方は、討論が思考を複眼的にする とも記載されています。
討論において、自分とは異なる考えを持つ人の意見に耳を傾ける事が役立ちます。(中略)「賛成」や「反対」といった主張は同じでも主張の根拠が異なる場合が有ります。意見というものが、様々な根拠によって組み立てられているという事を知ることは大切です。
討論はまさにこうした貴重な機会を提供してくれるものです。また、討論の際には、「討論によって自分の考え方を複眼的にする」というメタ認知的な目的を意識しながら望むとより効果的です。
メタ認知 あなたの頭はもっと良くなる 中公新書ラクレ 三宮真知子(大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授)著、P134~135より
まさしく、私の想いを代弁していただいているように思いました。著作の中では、「IPE(Idea Post-Exposure)パラダイム」と名づけ、その効果も記載されています。
まとめ
- 開発のアイデア出しにブレストが向かない理由
- 開発のアイデアは開発者の想定範囲を広げて、その中に解を見つける作業であり、直感やヒラメキといったものが大切。
- ブレストにより、アイデアが出たとしても開発者の検証が追い付かず、アイデアに振り回されやすくなる
- 開発のアイデア出しには二人ブレストが有効
- ブレストのアイデア出しと検証(議論)が効率的に行える。
- 二人ブレストの回数を増やし、ブレスト相手も複数人と行う事が大切
- 品質問題の原因追及のような場合はブレストが有効
- すでにデータがある為、論理的な議論が可能であり、複数のメンバーでも協議可能
- 個人個人の想定範囲(知っている範囲)は限界があるので、想定範囲を広げるためにも複数人でのブレストが必要。
- 個人の発想力を鍛えるには、まずは自分で限界まで考えてみる→他者の考えに触れる。→自分の考えを見直す。のプロセスが大切。(参考図書より)
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